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地球温暖化係数が低く、環境負荷の小さい次世代発泡剤で地球温暖化防止に貢献

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社会的課題
オゾン層の保護、地球温暖化防止
当社の取り組み
オゾン層を破壊せず、地球温暖化係数の極めて低いフロン代替製品の開発

オフィスビルや住宅の壁や天井などに使われている断熱材や冷蔵庫、冷凍庫などの断熱用途に用いられている硬質ウレタンフォームにはフッ素系の発泡剤が広く使用されています。こうした発泡剤には、現在、オゾン層を破壊しないHFC(ハイドロフルオロカーボン)類のフルオロカーボン材料が使用されており、当社は国内で唯一、HFC-245faを製造・販売しています。しかし、HFC類は地球温暖化係数(GWP)が高く、今後は、地球温暖化防止に対応した低GWP材料へのニーズが高まっています。ここでは、当社が開発した、オゾン層破壊物質(ODS)でなく、かつ、地球温暖化係数が低い、地球環境に優しい(環境負荷の小さい)次世代発泡剤に関連する技術をご紹介します。

開発のきっかけ

創業時より苛性ソーダの製造を行っていた当社は、1970年代から塩素系溶剤(1,1,1-TCE)の取り扱いを始め、その後、1980年代初頭には広く洗浄用途に使われる不燃で低毒性のフッ素系溶剤(CFC-113)の製造技術を開発し、生産を開始しました。80年代後半にはオゾン層破壊の問題が深刻化し、1987年に「モントリオール議定書」が採択され、特定フロン類の全廃が決定すると、当社は、特定フロン材料に代わって、代替フロン類であるHCFC材料の研究を進め、1990年代にはCFC-113に代わるHCFC-141bをフッ素系溶剤や硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤として商品化しました。
しかし、HCFC-141bでも小さいながらもオゾン層破壊係数(ODP)を有するため、完全な「ゼロODP」を達成するためにHFC類を開発し、2003年からはHFC-245faの生産を開始、硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤として市場に供給しています。その後、フルオロカーボン材料は冷媒、発泡剤、溶剤・洗浄剤の各分野でHFC類が広く普及しています。
しかし、材料の普及が進むと共に、次の新しい課題として「地球温暖化係数(GWP)=CO2を1とした係数」が議論されるようになります。HFC類は非常に安定な材料であるが故に、一般的には地球温暖化係数が数100から数1000という高い数値を持ちます。
このことから、その後の京都議定書を基礎とした世界的な議論においては、HFC類も削減対象ガスに指定されるようになります。
こうした世界動向を受け、当社では2000年代当初から、ゼロODPでかつ、GWPが低い次世代材料の研究開発を進め、HFO類が次世代の有望な材料候補であることを確信し、HFO類に関する製造技術の開発や商品開発に注力しました。2012年には、HFC-245faに代替する次世代発泡剤としてHFO-1233zd(E)(ゼロODP、GWP=1)、2015年には、HCFC-225に代替する次世代溶剤としてHFO-1233zd(Z)の生産・供給を開始しています。

開発アプローチ

フッ素化学の分野では、原料としてC2化合物であるテトラフルオロエチレン(TFE)を中心としたフッ素樹脂工業が大きく進展していきました。
一方、当社はフッ素樹脂への方向性ではなく、HCFC-141bからHFC-245faへの技術転換においては、炭素数が1のC1化合物と炭素数が2のC2化合物を付加反応させて炭素数が3のC3化合物を得るテロメリゼーションと呼ばれる技術開発を進め、C3化合物への道を切り開きました。
特に、テロメリゼーション反応における触媒と工業プロセス技術を確立し、HFC-245faの開発に至りました。また、HFC-245faの生産技術では、フッ素化反応をマイルドに制御するプロセス開発に注力し、この中から、HFC-245faとHFO-1233zd(E)を併産できる独自の生産技術を確立しました。
この基礎技術は、今日のHFO類の大規模生産技術に繋がっています。2012年10月には世界で先駆けてHFO類のHFO-1233zd(E)の商業生産を開始しています。今後も多様なHFO化合物の生産プロセス開発と商品開発に注力していきます。

HFO-1233zd(E) ISOタンクコンテナ
(NRS株式会社の承諾を得て掲載)

成功のポイント

HFC-245fa生産技術確立

これまでの長年のフルオロカーボン関連の研究開発における大きな転換点として「HFC-245fa生産技術確立」が挙げられます。つまり、C1化合物やC2化合物からなるフルオロカーボン材料に留まらず、C3化合物に繋がる製造技術(テロメリゼーションとフッ素化の技術)を手にしたことにより、多様な物性を有する数多くのフルオロカーボン材料への機会(材料バリエーション)が大きく拡大しました。さらに、その過程においてHFO類開発のための種を得ていたことが今回のHFO類の開発成功につながる必然かつ重要なポイントでした。これまでの、HFC類やHFO類に関わる開発の中で、研究開発だけでなく、工業的に優位な生産技術も培ってきたことは当社の強みとなっています。

異性化反応

最近では、HFO類の研究開発では、「異性化反応」に注目した研究開発に注力しています。これは、さらに多くのHFO類との遭遇に繋がるものと確信しています。今後とも、HFO類を基盤とした、発泡剤、冷媒、溶剤・洗浄剤などの実用への材料提供を目指し、多種多様なお客様ニーズに合致した新しい材料提案が実現する研究開発をめざします。

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