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「環境性能」と「製品性能」を
両立した画期的な新洗浄剤が、
世に出るまで。

M.O.

化学研究所
工学研究科 化学・生物応用工学専攻卒
2009年入社

K.O.

化学研究所
工学研究科 有機プロセス工学専攻卒
2007年入社

T.Y.

化学研究所
理学研究科化学専攻卒
2014年入社

M.T.

化成品生産技術センター
環境学研究科資源循環学専攻卒
2013年入社

Y.N.

化成品営業部 HFO営業開発室
工学研究科 分子化学専攻卒
2005年入社

工業製品の洗浄剤や衣類のドライクリーニングなどに使われる産業用フッ素系溶剤。世界的な環境意識の高まり、特に近年では地球温暖化への影響の懸念から、従来のフッ素系溶剤は、国際的な環境規制により段階的に使用量を削減することが取り決められている。
代替となる溶剤・洗浄剤には、環境性能に加えて従来と同等以上の洗浄性能が求められるが、これらを満たすフッ素系溶剤は市場にはまだなかった。
こうした社会的背景を受け、セントラル硝子化学研究所は、ゼロODP(オゾン層破壊係数)、低GWP(地球温暖化係数)を達成しつつ、優れた洗浄性能をもつ溶剤・洗浄剤の開発に挑んだ。

ふとしたきっかけから得たヒントをもとに製法を確立。

化合物の構造を一つ改良することで、ゼロODP・低GWPの基準を一挙にクリアする新溶剤「1233Z」を見出した。だが、もちろんこれで製品が完成するわけではなく、量産化を検討する必要があった。
「従来の1233Zの製法は、量産化が難しい方式だったんです。お客さまから高い評価をいただき、需要の増加が見込まれる1233Zでしたが、供給面でお客さまのニーズに応えられないことも想定されました(M.O.)」。数量を確保できないならプロジェクト撤退。そんな声すら社内で挙がる。量産化の製法開発は急務だったが、なかなか決定打が見出せない。そうした状態が1年近く続いたある日、M.O.たちのもとにヒントが舞い込む。
研究所では、定期的に研究の進捗を報告し、研究員が自由に意見やアイデアを出す会議がある。「その会議で『別の研究テーマに携わるチームが、新しい反応を見出した』という発表がありました(M.O.)」。やれるものは何でもやってみよう――M.O.らはすぐに検証を行い、翌日には新反応をもとにした合成に着手した。そして、数カ月後。M.O.たちは、量産化に適した製法の開発に成功する。大量に製造できるだけでなく、高純度化も達成。「量と質の課題を一挙に解決できたことに、嬉しい衝撃を受けました(M.O.)」。

パイロットプラントを立ち上げ、工場への技術移管を検討。

製法は確立したが、あくまで研究所内でのことに過ぎない。量産を開始するには、研究所が確立した技術を工場へ移管する必要がある。「研究所で扱う量はせいぜい数リットル。トン単位で製造する工場では反応の挙動が変わることもあるため、実生産に向けた量産化の検討は入念に行います(M.T.)」。
1233Zに関わる研究員だったM.T.は、工場移管を機に工場へと異動する。自ら開発に携わった製品のプラント設計・量産化に向けた課題解決、当時2年目の彼に大きな任務が託される。量産製造の環境下での反応条件の洗い出しや条件見直しでは、研究所で培った化学の知見が役に立った。しかし、プラントは、バルブ・ポンプ・温度や圧力の計装機器、等々が組み合わさってできている。「機械、電気計装、それに、法令や品質の知識も必要。一から勉強でした(M.T.)」。M.T.は工場にいる「その道の専門家」を捕まえては質問し、また実機で検証を重ね一つひとつ覚えていった。「化学メーカーだから化学の知識は当然必要。でも、セントラル硝子のものづくりでは、多分野の知識が必要だと身をもって知りました(M.T.)」。彼らの努力により、ゼロODP(オゾン層破壊係数)、低GWP(地球温暖化係数)を達成しつつ、優れた洗浄性能をもつフッ素系溶剤・洗浄剤を、他社に先駆けて開発・生産することに成功した。

顧客の導入検討をデータでサポート。

次は用途開発。サンプルを顧客に供給し、さまざまな分野で洗浄剤や溶剤として使えるか、既存のものと比較、評価してもらう工程である。顧客の開発環境では技術・機械面から評価できない場合には、研究所が社内の設備を用いて分析を行い、評価の判断材料となるデータを提供する。取引成約を左右する極めて重要な工程だ。
この工程に関わったのがK.O.だ。「お客さまから分析方法までを細かく示されることはまれです。どんな条件でどうやって調べれば既存のものと比較ができるかを研究所で試行錯誤し、データを出していきます(K.O.)」。その結果、多くの顧客から1233Zは高い評価を得る。

顧客の製造設備・環境・条件で、テスト、分析を繰り返す。

量産化の目途も立ち、1233Zの正式販売が2015年と決まる。
その半年ほど前から、Y.N.は営業と一緒に顧客のもとを訪れていた。「1233Zを導入するにあたって、前の素材と同じように使用できるかをお客さまの製造設備・環境・条件でテスト、分析するのです(Y.N.)」。当時、設備を扱える技術者が社内にいなかった。研究員として1233Z開発に関わっていたY.N.にも、当然その知識はない。しかし、Y.N.は営業メンバーとともにさまざまな顧客、設備メーカーと面談し、知識を取得していった。そして、社内で実証を繰り返しながら、試験、評価分析。テスト、分析を4回繰り返し、やっと採用となった顧客もある。
喋るのは苦手というY.N.だが、現在、研究所で培った知識を活かし技術営業として活躍している。「製品が採用される場に立ち会えるし、採用後のフォローなどでお客さま先に出向き、『使ってよかった』などの声を直接聞くことができます。研究所の仕事とは違ったやりがいを感じています(Y.N.)」。Y.N.が得た設備に関する知見は、研究所内に蓄積され、次代に受け継がれている。

航空宇宙分野の品質レベルを満たす分析法を開発。

販売後、1233Zは電子部品、医療器具などさまざまな製造分野で実用化されていく。その際、不純物混入の割合など、各分野で異なる品質規格を1233Zがクリアするか分析できなければならなかった。とりわけ高いレベルの品質規格を求められたのがロケット製造分野だ。この分野で、分析法を開発したのがT.Y.だ。「当時入社2年目。ロケット打ち上げに貢献できると気合が入りました」。しかし、顧客が要求した分析精度は、通常の10倍以上。初めは無理と思ったというT.Y.だが、毎日のように上司やプロジェクトメンバーとディスカッション、検証実験を繰り返し、分析法の開発に成功する。
だが、この分析法を工場に移管する際、新たな問題が生じる。T.Y.が示した分析条件では作業員の負担が大きいというのだ。T.Y.は工場に赴き、分析環境を自らの目で確かめ、作業員の声に耳を傾けた。そして、分析法を見直し、検証。さらに、工場側と折衝を重ね、条件をチューニングしていった。プロジェクト開始から1年半。ついに、T.Y.は目標レベルを落とさず、作業性にも配慮した分析法を工場に移管させた。

「ものづくりは人づくり」を実感。

プロジェクトメンバーはもちろん、他のグループや工場、顧客とコミュニケーションしながら、1233Zを世の中に送り出した研究所員たち。人との関わりを通して、多くのものを得た。例えば、他部門や工場と一から製品を立ち上げた経験(M.O.)。工場との人脈(M.T.)。社外の人と接することで身に付けた、わかりやすく人に説明する力(Y.N.)。あるいは、顧客を通して知った市場ニーズやさまざまな用途(K.O.)。「私は周囲を巻き込むことの大切さを学びました。やっぱり、『ものづくりは人づくり』ですね(T.Y.)」。
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セントラル硝子は、これまで国内外の200社以上と1233Zの用途開発を行ってきた。その実績と、地球温暖化係数1以下、オゾン層破壊係数ゼロを両立させた環境性能の高さから、2019年9月、1233Zは、第22回オゾン層保護・地球温暖化防止大賞「経済産業大臣賞」を受賞した。HCFCが全廃される2020年以降は、更なる需要拡大も期待されている。